研究会(研究発表会)

第64回(富山)

講演要旨

「PCR-DGGE法による土壌診断法 -病害防除への利用の現状と今後の展開-」

對馬誠也[(独)農業環境技術研究所生物多様性研究領域]

はじめに  
 平成18年から開始された農林水産省委託プロジェクト「土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発」(以下、eDNAプロジェクトと称す。)は、安定した地力の確保や連作障害等の克服するため、従来から利用されている土壌の理化学性評価に加え、新たにDNA解析技術を用いて生物性を評価する手法の開発を目指して研究が開始された。 一口に土壌の生物性評価といっても、土壌の種類は多様で、土壌によってはDNAの抽出自体は簡単ではない。また、かりに抽出できても回収率や解析に利用できる純度の高いDNAを精製することは極めて難しい。本プロジェクトの成果は、主として、1)全国のどの種類の土壌でも解析できる細菌・糸状菌や線虫の標準化手法(森本ら、2008;大場ら、2008)を開発したこと、2)多くの研究者がその解析技術を用いて圃場試験を行い、開発した手法がどの畑でも利用できることを示したこと、3)収集した情報を未来永劫残して多数の研究者が利用できるようにするシステムを開発したこと、があげられる。それらの技術が、肥培管理や病害管理にどのように役立つかについては、研究年数が限られていたこともあり、充分に明らかにはなっていないものの、一部ではあるが、いくつかの知見が得られているので紹介し、今後の展開について述べたい。

1,eDNAプロジェクトの紹介  
 前述したように、本プロジェクトでは、1)新しい土壌微生物評価技術の開発、2)開発した技術による圃場での作物生産・病害発生と土壌微生物相との関係の解析、3)圃場情報(栽培、肥培管理、病害発生、微生物相など)のデータベース化とその利用法の開発、を3つのグループに分かれて進め、その概要や考え方については紹介してきた(2010a、2010b、2011)。  
 プロジェクト終了に当たり、その成果については對馬(2011)に示しているが、代表的なものとしては、「革新的な土壌生物相解析マニュアル」の「ダイジェスト版」と「詳細解説版」を作成し、全国の関係者に配布した(農業環境技術研究所、2011)ことがあげられる。ダイジェスト版は、「1.技術マニュルVer1.0」、「2.ケーススタディVer1.0」、「3.研究者用マニュアルVer1.0」にわかれ、特に「2.ケーススタディ」ではPCR-DGGE技術を用いた解析事例を紹介している。

2.PCR-DGGEの土壌病害への利用について  
 eDNAプロジェクトでは、前述のアブラナ科野菜根こぶ病、トマト褐色根腐病などで興味深い成果がでている。アブラナ科野菜では、フルスルファミド粉剤では、次作に薬剤を施用しない場合でも発病が抑制されることがあり、その効果には持続性が認められた。この影響は土壌糸状菌相にも影響していることから、これらの関連性を調べることによって、不必要な薬剤施用の抑止に繋がるのではないか、と推察している(村上ら,2011)。また、トマト褐色根腐病においては、関口ら(2011)は、30年以上にわたり発病履歴のないハウスにおいて、PCR-DGGEによりそれらの圃場に特異的なDNAハンドを確認した。これらは分離試験により、トマト褐色根腐病に拮抗的な病原菌であった。  
 こうした一点の研究から、PCR-DGGE解析により、圃場や処理に特異的なDNAを検出したり、多様性程度の違いなどから拮抗菌の検出や、発病しにくい圃場の診断、さらには、薬剤や資材のより効果的な利用を支援する技術が開発される可能性があると考える。

  • 表 革新的な土壌生物相解析マニュアル

    3.eDDASsの活用による新しい研究への期待  
     近年、「過去の文献情報」に多数集めて統計的手法により目的に合わせた要因解析を行う「メタ解析」という手法により、たくさんの研究成果が医学や生態学でなされているようである。情報処理技術の伸展により、こうした過去の他人の情報を解析して研究成果を出すことが可能になってきた。eDDASsは一人ではとても解析ができそうもない土壌微生物の解析のために作られてものであり、そうした最新の手法を用いることにより、さらに、eDDASs情報は活きてくると考えている。そのためには、まず、こうした手法に病害分野も慣れていく必要があると考える。それにより、多くの国や県で収集された過去の貴重な情報が発生予察や発生要因の解明等に役立つこともあるのではないかと考える。  
     これまで、土壌病害の診断については、低コストな診断法がなく、また膨大な情報を収集して解析することもできなかったため、汚染種子や病気の診断などに比べ著しく遅れていたが、こうした様々な技術ができ、情報処理が発達したことにより、今後伸展することを期待したい。

    引用文献
    1) 森本 晶・星野(高田)裕子(2008)土と微生物62:63-68.
    2) 大場広輔・岡田浩明(2008)土と微生物62:69-74.
    3) 對馬誠也(2010a)植物防疫64(3):11-17.2010(3).
    4) 對馬誠也(2010b)土と微生物64:64-69.
    5) 関口博之(2011) 植物防疫65:11-14.
    6) 村上弘治(2011)植物防疫65:7-10.
    7) 對馬誠也(2011)植物防疫65:1-6.

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    2013.9.20更新